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公開日:2020/11/11
最終更新日:2020/11/12

あなたの中にある「自己リスクの楽観視」がSNSトラブルを引き起こす?

誰もが気軽に利用できるSNSは、優れたコミュニケーションツールであると同時に、トラブルのリスクを抱えています。それは、学校教育でネットリテラシーを学ぶ中高校生も同じです。

今回は、「自己リスクの楽観視」について研究されている、日本大学の木村敦先生にお話を伺いました。私たちがSNSでトラブルに巻き込まれないためには、どうすればよいのでしょうか?

木村 敦(きむら・あつし)
木村敦先生のプロフィール画像

日本大学危機管理部危機管理学科准教授。博士(心理学)。

研究分野は、実験心理学、社会心理学、教育工学、感性情報学。SNS利用のリスクに関する研究にも取り組んでおり、論文「高校生における認知熟慮性とSNS利用リスクの楽観視との関連」を発表(共著)。

若者が巻き込まれやすいSNSのトラブル

ー若者がSNS上で巻き込まれやすいトラブルには、どのようなものがありますか?

トラブルというと、どうしても詐欺や誘拐など、悪意を持つ加害者によって巻き込まれる犯罪を思い浮かべます。

ところが、若者を対象者とした様々な調査結果から、SNSでは日常の対人コミュニケーションでのトラブルも多いことがわかっています。

ーSNSでは、日常のコミュニケーションに悪意が潜んでいるということでしょうか

そうではありません。悪意がなくてもトラブルは起こります。自分にそのつもりがなくても、相手が意図しない受け取り方をしてしまうことでトラブルに発展するんですね。

SNSは気軽に書き込めるコミュニケーションツールです。それゆえに、友人や知人といつものように対面で話しているのと同じ感覚で書き込んでしまい、誤解されてケンカになってしまうことがあります。

ーいつも通りやり取りしたつもりなのに、なぜSNS上だとトラブルになってしまうのでしょう?

対面の場合、私たちはやり取りする内容以外にも、多くの非言語情報をコミュニケーションに用います。声のトーン、表情、姿勢などです。

私たちは、相手の感情の動きを、無意識のうちに非言語情報で補いながら会話をします。非言語情報からも相手を理解しようとするので、誤解が生じにくいのです。

これがSNSになると、相手に伝わるのは文字情報(言語内容)がメインです。そして、非言語情報が届かないSNS空間でありながら、若者たちはいつもの対面コミュニケーションと同じノリで文字情報を送ってしまいます。

非言語情報で補っていた意図や文脈が、SNS上では伝わらないために、日常のコミュニケーションでもトラブルに発展しやすいのです。

SNSトラブルと「自己リスクの楽観視」の関係

ー先生方が発表された論文「高校生における認知熟慮性とSNS利用リスクの楽観視との関連」で、SNSトラブルについて高校生を調査対象にされたのはなぜでしょうか

私は所属する日本大学危機管理学部の中で、リスクコミュニケーションについて研究しています。この研究を活かすため、中学生や高校生を対象に、ソーシャルメディアの安心・安全な利用方法について講演できないかと考えたのがきっかけです。

調査は、危機管理学部の学生有志、文理学部心理学科の岡隆教授と共同で実施しました。

ー調査ではどのような結果が得られましたか?

私の研究対象は「自己リスクの楽観視」です。

自己リスクの楽観視については、これまでの研究によって大学生や社会人に見られることがわかっていました。調査にあたり、自己リスクの楽観視は、情報モラル教育が盛んに行われている高校生にも当てはまるのではないかと考えたんです。

現代の中高生は、学校で情報モラル教育を受けているにもかかわらず、SNSでのトラブルが後を絶ちません。この問題の背景に、「自分は被害にあわない」という自己リスクの楽観視があるのではないかと仮定しました。

調査では、SNS利用経験のある高校生男女500名からデータを得ることができました。

そして調査の結果、高校生でも全体的に自己リスクの楽観視があることがわかりました。SNS上のトラブルについて、高校生は「他の生徒は巻き込まれるかもしれないが、自分は大丈夫だろう」と考えているわけです。

こうした楽観視が油断となって、SNSのトラブルは減らないのかもしれません。

さらに、認知熟慮性が高い生徒(熟考群)は、ネットリテラシーが高い一方で、SNSの対人トラブルについて「被害者自身の過失が大きいのではないか」と考える傾向にあることもわかりました。

ー「認知熟慮性」という聞き慣れない言葉が出てきましたが、認知熟慮性の高い人・低い人にはどういった特徴があるのでしょうか?

よく考えて行動に移す人は、認知熟慮性が高い「熟考型」に分類されます。受け取った情報に対して思いついたまま返事をする、直観的に行動する人は、認知熟慮性の低い「直観型」と呼びます。

熟考型と直観型は、どちらが良い・悪いかを定めるものではありません。あくまで「外界から得た情報に対して、どう行動するか」という認知情報処理スタイルの個人差を表しているだけです。

これまでの研究で、熟考型は数的処理能力が高いことがわかっていますので、どうしても学力と結び付け、直観型より優位であると思いがちです。しかし、認知熟慮性おいて、必ずしも熟考型だけが優れているとは言えません。

あくまでも行動スタイルを表している、と考えていただければいいかなと思います。

ー調査結果において、認知熟慮性が高い・低いで自己リスクの楽観視に違いはありましたか?

違いは見られませんでした。認知熟慮性が高くても低くても、つまり熟考型であっても直観型であっても自己リスクの楽観視は見られたのです。

差が見られたのは被害者に対する考え方です。熟考型の生徒たち(熟考群)は、直観群よりも「SNSトラブルは被害者自身にも非がある」と考える傾向にあることがわかりました。

さらに、ネットリテラシーについて問うたところ、熟考群は直観群よりも正答率が高かった。つまり、熟考群に分類される生徒は、ネットリテラシーについても高かったんですね。

「被害者にも非がある」と考える人の心理

—「SNSトラブルは被害者自身にも非がある」と考える人には、どのような傾向があるのでしょうか

事件や事故について「被害者にも非があるのではないか」と考える傾向は、社会心理学では「公正世界信念(the beliefs in a just world)」という概念をもって説明されます。人間であれば、多かれ少なかれ持っている考えです。

公正世界信念とはつまり、「世界は公正であり、善い行いをすれば報われ、悪い行いをすれば裁かれる」というシンプルな考えを指します。道徳的な信念ですね。

ところが一方で、この公正世界信念は被害者バッシングにつながることもあります。

残念ながら、この世界は、善い行いをすれば必ず報われ、悪い行いには必ず裁きが下るわけではありません。自分に非がなくても、トラブルに巻き込まれることがあるのが現実です。

こうした現実は、公正世界信念を脅かすものです。よって、公正世界信念の高い人は、これを貫くために「被害者にも非があるのではないか」と考え、主張するわけですね。

SNSを観察していても、被害者バッシングをよく見かけます。痴漢の被害者に対して「誘うような恰好をしているからだ」と言ったり、新型コロナウイルスに感染してしまった人について「感染のリスクにつながる行動をしたのではないか」と疑ったりする、ということが起こっています。

ー被害者に非があると考える人たちは、自分がトラブルに巻き込まれる可能性を考えないのでしょうか?

私たちの調査では、ネットリテラシーの高い熟考群に「SNSトラブルは被害者自身にも非がある」と考える傾向が見られました。

熟考型は数的処理能力が高いことがわかっています。高校というコミュニティの中では学力の高さを評価されており、周囲からも「しっかり者」と認識されている可能性が高いと言えそうです。

つまり、熟考群の学生たちは、自分は優れている、自分はちゃんと取り組んでいるといった思いが強いのかもしれません。こうした背景から「自分は大丈夫」という認識が生まれるのではないでしょうか。

この点については、今後の検証が必要です。

トラブルの事例を自分のこととして考えるには

—ネットリテラシーの教育を受けていても、トラブルを自分のこととして受け取れないのは問題ですね

少し前に「バカッター」といって、Twitter上で迷惑行為の投稿が立て続けに炎上しました。以降、教育現場ではネットリテラシー教育に力を注いでいますが、他者のトラブルから学ぶことができなければ、その教育効果も限定的になってしまいます。

自分のこととして受け容れられない理由は、2つあると考えられます。1つは、先ほど紹介した公正世界信念で、「自分には非がないから大丈夫」と思っていることが原因です。

もう1つは、トラブルの被害者に対するネガティブなステレオタイプが定着している可能性もあると考えています。

例えば、いかにも事件・事故に巻き込まれそうな、おとなしくて弱々しいイラストを被害者キャラクターに仕立て、トラブルの事例を紹介します。すると、熟考型の生徒は、そのキャラクターを「しっかりしている、強い自分とは違う」と認識してしまうでしょう。

ートラブルの事例を自分に落とし込んで考えるには、どうすればいいのでしょうか

事例に上がった被害者のことを、特別な存在と受け止めずに、「自分が同じ状況になったらどうする?」と考えられるといいですね。教育現場でもこれを意識して、リスクコミュニケーションを工夫できるといいでしょう。

私は、危機管理学部で「ヒューマンエラー論」という科目を担当しています。そこで教えているエラーマネジメントの1つ「ハインリッヒの法則」を紹介しましょう。

ハインリッヒの法則は、労働災害の経験則モデルです。例えば、1件の重大事故があった場合、その背景には29件程度の軽微な事故があり、さらにその背景には300件の「ヒヤリハット体験」があるといいます(1:29:300はあくまで確率の大小であり客観的な根拠ではない)。

つまり、「ヒヤリハット」で終わった体験でも、大きな事故につながる可能性を秘めているわけです。トラブルの事例を紹介する際には、その背景にある、誰もが経験するであろう「ヒヤリハット体験」も伝えてあげるといいでしょう。

私たちは、大きなトラブルにつながる振る舞いをしていても、運よくそれを回避できているだけかもしれない。そう考えてみてほしいですね。

スマホをしっかり見る、スマホから顔を上げる

ー「自己リスクの楽観視」をなくすためには、どうすればいいのでしょうか

まずは、誰もが「自己リスクを楽観視している」と知ることが大事です。

どんなに優れた人でも、優れているからこそ「自分は大丈夫」と認識し、油断している可能性があることを知りましょう。「自分は大丈夫」と思うことについて、一度慎重に考えを巡らせてみてください。

—私たちがSNSトラブルに巻き込まれないようにするには、どのような行動が必要でしょうか

「スマホをしっかり見る」そして「スマホから顔を上げる」の両方を大事にしてほしいと思います。

SNSは手軽に、すぐに投稿できます。よく考えず、反射的にコメントしてしまうと、予期せぬトラブルに巻き込まれるかもしれません。

気心の知れた友人や知人へのコメントでも、相手にどのように受け取られるか、相手との関係性をふまえて正しく伝わるか、一呼吸おいて見直すことをおすすめします。それが「スマホをしっかり見る」ということです。

また、SNSでは仲間内に向けた発信でも、不特定多数の目に触れるのだと認識することも大事です。あなたに攻撃的な感情を抱く人、何らかの方法であなたを搾取しようとする人が見ているかもしれません。

スマホを手にした時、自分はインターネットの広い情報空間に飛び込もうとしているのだと意識しましょう。そして、わからないこと、不安に思うことがあれば、周囲の人に相談・確認してください。これが「スマホから顔を上げる」ということです。

そして、スマホで起きたトラブルは、自分一人でどうにかしようと思わないことです。

親や担任、友人に助けを求めることで、解決方法が見つかることもあります。すぐに解決できなくても、あなたがトラブルに巻き込まれて困っていることを、周囲の人が認識することが大事です。

自分だけでトラブルを抱え込まないようにしましょう。

ー子どもがSNSトラブルに巻き込まれないため、保護者ができることはありますか?

SNSリテラシー講座では、子どもとSNSについて話し合うこと、ただしインターネットやSNSの否定から入らないことを保護者に伝えています。

中高生向けの講座で、参加者から「親はSNSが悪いものと決めつけていて、それを押し付けてくる」という声が上がってきたことがありました。保護者は子どものためを思っているのでしょうが、こうなると話し合いになりません。

現代の中高生は、SNSなしでは学校生活が送れないのが現状です。実際、クラスのLINEグループに入っていないと会話に乗り遅れたり、行事の役割分担決めに参加できなかったりします。

クラスのコミュニティについていけないことは、子どもにとっては深刻なのです。また、中高生は一人の自立した人間に成長する時期にあります。高圧的な意見には、それが正しくても反発したくなるものです。

いくら子どものことが心配でも、「あなたのためを思って」「こうするべき」といった言い方は避けた方がよいかもしれません。我が子を取り巻くSNSの状況を丁寧にヒアリングし、一緒にトラブルの予防・対策をすり合わせていけるといいですね。

ー先生はSNSトラブルの研究を、今後どのように活かしていきたいとお考えでしょうか

自己リスクの楽観視は、SNS以外のトラブルでも言えることです。今後は、振り込め詐欺などの特殊詐欺についての研究も進めていきたいと考えています。

特殊詐欺でも、被害者は「手口は知っていたが、まさか自分がだまされるとは思わなかった」と言います。こうしたトラブルにつながる楽観視は、幅広い年齢で共通していることです。

私はこれからも、自己リスクの楽観視を軽減するためのコミュニケーションについて研究し続けます。研究の成果が、様々なトラブルを防ぐ活動に役立てばうれしいですね。