大型ショッピングセンターやカフェ、宿泊施設などで気軽に利用できる無料Wi-Fi。私たちは当たり前に利用していますが、無料サービスの提供者にはどのような利益があるのでしょうか。
今回は、公衆無線LANについて調査されたこともある新潟国際情報大学の山下功先生に、無線LANの収益モデルについて伺いました。インバウンドや新型コロナウイルスの影響を受け変わる通信サービスについても考えてきます。
- 山下 功(やました・いさお)
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新潟国際情報大学 経営情報学部 准教授。
横浜国立大学経営学部 会計・情報学科卒業。同大学院経営学研究科修士課程修了後、ミツミ電機株式会社の経理部に5年間勤務する。
2009年3月横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期単位取得(満期退学)。
研究分野は管理会計、原価計算、会計情報システム、公共交通経営。
無線LANサービスが当たり前の時代になりつつある
—会計学がご専門の山下先生が、2012年に公衆無線LANを研究対象にされたのはなぜですか?
通信インフラとしての公衆無線LANを、経営的側面から考えたいと思ったからです。私の専門は管理会計と会計情報システムですが、インターネット環境はその周辺に位置する事象として興味がありました。
当時はスマートフォンが普及し始め、端末も多様化してきた頃。通信量が増えるだけでなく、外出先でもインターネットを利用することが当たり前になるはずで、データ容量に制限のない公衆無線LANが必要になってくると考えました。
民間企業が運営するとはいえ、通信インフラにはある程度の公共性が求められます。公衆無線LANも同じで、無料または安価なサービスが現代社会に乱立するのは必然だったと言えるでしょう。
—今後は無線LANの無料サービスは当たり前になっていくのでしょうか
私が論文「無料公衆無線LANの現状:収益・費用構造を中心に」を発表した2012年と比較して、無線LANサービスの公共インフラ化は大幅に進んでいます。
ふだん利用している大型ショッピングセンターやホテルを思い出してみてください。多くの施設で無線LANが無料提供されています。
例えば、私が子どもの頃は、エアコンがない設備も珍しくありませんでした。「冷房あります」と張り紙している店舗があったり、東京都内の電車にもエアコンがない車両があったりしたものです。
今は、無線LANサービスを提供する施設には「Free Wi-Fi」のステッカーが貼ってあります。今後は、かつてエアコンがそうであったように、ステッカーがなくなり、ほとんどの施設で無線LANサービスが無料で利用できるようになるでしょう。
どこへ行っても冷房や暖房が効いているのと同様に、無線LANサービスも当たり前に利用できる時代がすぐそこまできています。
無線LANの収益モデルはテレビサービスとよく似ている
—無線LANサービスを無料で提供することで、事業者にはどのようなメリットが生じるのでしょうか?
無線LANサービスの収益モデルは、実はテレビとよく似ています。
テレビも地上波であれば番組は見放題です。放送局は、広告主から広告料を得たり、番組の関連グッズを販売したりして利益を得ます。
無線LANの無料提供も同じで、サービスを利用するために訪れた客が、ついでに買い物をしてくれれば店舗の利益につながります。これはテレビと同じ、有料商品で無料商品をカバーする三者間市場および内部相互補助のビジネスであり、アンダーソンの著書『フリー』(2009年)で提唱されたモデルです。
つまり、無料の無線LANサービスは、実のところテレビ時代から続く伝統的な収益モデルを採用していると言えます。無線LANを無料で提供する側は、他の製品やサービスで収益を回収しているのです。
無線LANを無料で提供するホテルやカフェも、宿泊代や飲食代などで収益を回収しています。
—インターネット上の無料サービスにも同じことが言えるのでしょうか
例えばYouTubeやTwitter、Facebookも、テレビと同じく無料でサービスを提供して広告収入を得ています。ただし、広告はユーザーのニーズに適したものを表示させる、クリック回数に応じて広告料を支払うなど、ITを駆使した方法でテレビの収益モデルよりも細分化されていると言えるでしょう。
また、Webサービスを利用するユーザーは、事業者へ個人情報を提供しています。ここもテレビとは大きく異なる点です。
特に、GoogleなどGAFA(ガーファ)に属する巨大企業は膨大な個人情報を所有し、市場での競争を有利に進めています。われわれは個人情報を提供する代わりに、無料でサービスを受けられるわけです。
公衆無線LANサービスの中にも、ログイン情報を求めるものがあります。このログイン情報を集約することで、サービスの提供側はどういった性別・年齢層のユーザーが利用しているかを知ることができます。
無線LANサービスとインバウンドの関係性
ー近年、通信業界は大きな変化を遂げていますが、先生はどういった点に着目しておられますか?
家庭においては、光回線の普及が大きかったのではないでしょうか。2023年1月31日でNTTがADSLサービスを終了することもあり、比較的安価で高速通信が可能な光回線が整備されています。
中小の事業者でも光回線を設置しやすくなりました。セキュリティサービスとセットで無線LANサービスを導入する個人商店も増え、顧客獲得のためのツールとして広がりを見せています。
インバウンドで海外からも多くの観光客が訪れていますから、無線LANサービスの導入は競争力を上げる一つの手段になっていると言えるのではないでしょうか。
ー日本の無線LAN環境は海外と比べて進んでいるのでしょうか
比較する国と場所によるでしょう。
私は、2018年9月から2019年8月までカナダのアルバータ大学に客員教授として勤務しましたが、無線LAN環境は日本と比べて優れているとは言い難かったです。場所によっては3G回線の方が速かったですから(笑)。
ただし、エドモントンの大型ショッピングセンターには紙の店舗案内はなく、タッチパネルもしくは無線LANにつないで端末で確認するようになっていました。複数言語の案内にも対応していました。
紙の案内で多言語に対応しようと思うと、大量の部数を用意しなければならず、どうしてもコストがかかってします。今後、無線LANサービスが当たり前になれば、コスト削減のため、日本のインバウンド事業に関するツールもWeb上に移行していくでしょう。
ホテルでも、各種サービス案内や宿泊約款などをタブレットで提供している施設があります。観光業界においても、紙から無線LANを利用したコンテンツ提供が進んでいくと思います。
無線LANの進歩がもたらす新しい情報資産管理
—無線LANの発達によってクラウドサービスの可能性も高まっているように思います
クラウド上で情報資産を管理する法人も増えました。一昔前までは社内のサーバーで管理していたものが、今ではクラウドを利用すれば客先でも情報を取り出せます。
私の専門領域で言いますと、会計士や税理士がクライアント先で仕事をする際にも、クラウドサービスは大変便利です。クラウドの会計システムがあれば、複数企業の情報を効率的に管理できます。
クラウドの会計システムは、特に中小企業が積極的に取り入れているようです。
—クラウドの会計システムにはどのようなものがあるのですか?
これまでの会計システムは、数社の大手企業が独占していたと言ってもいいでしょう。サービス自体は豊富にあるものの、サポートや信頼の面で利用企業の多いシステムが好まれる傾向にあります。
ところが、クラウドの会計サービスが登場することで、これまでの勢力図に変化が起こりました。「マネーフォワード」や「freee(フリー)」が参入し、大手に昇りつめています。
昨今の新型コロナウイルスによるリモートワーク定着もあり、より多様な分野で新しいクラウドサービスを利用する企業が増えていくでしょう。中小企業でも気軽に使えるサービスがどんどん出てくると思います。
5年後・10年後の予測がつかない激動のWeb業界
ー無線LANの収益モデルとサービスの進歩、とても興味深かったです
Webサービスの運営は、ほとんどが固定費で構成されています。ゆえにリスクも高く、利用者が少なければ赤字になりサービスを続けることができません。
例えば、コロナ禍で苦境に立たされている航空業界が提供するサービスも、燃料費や人件費、機体の維持費など固定費の割合が高い。よって搭乗者数が少なければ赤字になってしまいます。
Web業界も航空業界と同じです。GAFAのように利用者数の多い巨大企業、または大手SNSサービスは、今後も収益や利益を拡大していくでしょう。
Web業界への参入はリスクが高い分、当たれば大きな利益を得ることができます。5年後、10年後には予想もできない変化を遂げているかもしれず、会計学から見ても大変興味深い業界です。
—先生はなぜ会計学を専門に選ばれたのでしょうか
中学生の頃は、為替相場や投機に興味がありました。証券会社で端末を扱っているディーラーがかっこよく見えていたんです。
その後、商業高校に進んだ友人から簿記のノートを見せてもらう機会がありました。その帳簿を見て「整然として美しいな」と感じたのが、会計に興味をもったきっかけです。
会計を学ぶために横浜国立大学の経営学部へ進学。そこで、企業の経営改善に役立つ管理会計や原価計算、会計情報システムを学び、電子部品メーカーの経理部に5年間勤めました。
5年の勤務の中で、3件の会計情報システムの構築と導入に関わることができたことは運がよかったですね。実社会で財務会計を経験したからこそ、新潟国際情報大学で役立てる知識があると感じています。
振り返ってみると、少しずつ目標が変化してはいるものの、節目ごとに良い選択ができたと思います。若い人にも、激動する現代社会だからこそ、初志貫徹することだけが最善ではないと伝われば嬉しいですね。
今は未来の会計人を育てることに力を注いでいます。同時に、公共交通に関する経営について、また会計処理の自動化についての研究も進めていけたらと考えています。
新型コロナウイルスによって大学の授業もオンラインに
—新潟国際情報大学では、新型コロナウイルスが授業に影響しましたか?
2020年前期はオンライン授業でした。
オンライン授業でZoomを利用している大学も多いですが、新潟国際情報大学ではCisco Webexを導入しました。われわれ教員にとっては授業の進め方を工夫する良い機会となりましたが、学生はキャンパスライフを楽しめずに苦労したと思います。
2020年9月から対面授業を再開しました。地域に根差した小規模大学ですから、しっかりと感染対策すれば通常通りの授業が続けられるでしょう。
—4~7月は先生も自宅から講義をされていたのですか?
はい。オンライン授業のためではないのですが、2020年3月に自宅に光回線を導入しましたよ。ADSLから光回線に変えたことで通信速度が大幅に改善し、動画や資料の送信もスムーズで快適です。
私が申し込んだ光回線は「IIJmio(アイアイジェイミオ)ひかり」です。IIJは日本における本格的なインターネット・サービス・プロバイダの先駆者で、格安スマホの大手でもあり、信頼性があります。
大手キャリアからIIJmioの格安スマホに乗り換えていたこともあり、光回線をまとめてセット割を利用しています。このサイトでもおすすめしているように、光回線とスマホをまとめると月々の通信費が安くなるのが魅力でIIJmioに決めました。
—やはりセット割はお得ですね
月々600円程度の割引ですが、セット割は光回線を選ぶ決め手の一つになりました。何となく乗り換えた光回線ですが、読者の皆さんに役立つ情報があれば嬉しいですね。