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公開日:2020/11/20
最終更新日:2020/11/20

インフルエンサーと「情報を選別するための見識」が高い若者たち

TwitterやInstagramなどのSNSは、若者の生活に深く入り込んでいます。SNS上の情報が重視される一方で、情報を受け取る側のリスクも問題になっていますね。

流通経済大学の福井一喜先生は、SNSで観光・レジャー情報を発信している若い世代のインフルエンサーを調査し、論文を発表されています。先生のお話を通して、私たちがSNSの情報とどう向き合えばいいのか考えてみましょう。

福井 一喜(ふくい・かずき)
福井先生の画像

流通経済大学 社会学部 助教。

筑波大学大学院 博士後期課程 生命環境科学研究科修了 博士(理学)。

専門は観光地理学。

現代社会の自由の地理的問題をツーリズムの視点から研究中。

著書に『自由の地域差――ネット社会の自由と束縛の地理学』(単著,2020年,流通経済大学出版会)。

SNSでは目的を持って情報発信する利用者にフォロワーがつく

ー福井先生は論文「東京大都市圏に居住する若者の観光・レジャーにおけるSNS利用」で、どのような調査をされたのですか?

SNS利用者に対して、ネットアンケート調査とインタビュー調査を行いました。

ネットアンケートでは、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県に居住する16歳から34歳までの1,115名から回答を得ることができました。また、インタビュー調査では、SNS上での影響力が強い、インフルエンサーとみなされる人を対象にしています。

ネットアンケート調査の結果では、SNSで観光・レジャーについて発信するのは全体の5割前後であることがわかりました。

ーSNSで情報を発信する人は、何が目的なのでしょうか?

目的はいろいろあると思います。「フォロワー・知り合いを増やしたい」だったり、「思い出を記録しておきたい」だったりですね。こうした目的意識があって情報を発信している利用者に、結果的にフォロワーがついていると感じます。

閲覧が中心の利用者は、SNSがおすすめするアカウントや、注目されている投稿(post)を見てフォローを増やしているようですね。

SNSのAIがどうやっておすすめアカウントを選んでいるかはわからないので、私にとっては不気味です(笑)。ひょっとすると、InstagramならFacebookと連携すれば個人の趣味・趣向を分析できるのかもしれませんね。

若者たちの「情報を選別するための見識」は極めて高い

ー若い世代はなぜ、SNS上で観光・レジャー情報を集めるのでしょうか

大きく分けて2つの理由があると考えています。

1つは消極的な理由です。SNSなら無料で情報が手に入りますよね。

10代や大学生であればお金がない、あっても浪費はしない・節約する傾向にあります。

私は、大手広告代理店と協力して若者について研究しています。以前、都内の大学生に「新しい遊びを考えてきてほしい」とお願いしたことがあるのですが、無料でできることを考えてくるんです。消費に対して慎重なのだと思います。

観光雑誌には優れた情報が載っていますが、やはり有料であることがハードルになるようです。SNSの情報なら、スマホで手軽に調べられますしね。

もう1つは積極的な理由で、若い世代はSNSに口コミなどのリアルな情報を求めます。観光雑誌は情報が編集されているので、彼ら彼女らはそこに「売るための意図がある」と考えるようです。

自治体や観光協会が発信するのは、たとえSNS上であっても公式情報なので、あまり魅力的に映らないようですね。若者たちは「本当のところはどうなのか?」が知りたいので、リアルな情報や真実を求めるのだと思います。

ー個人アカウントが発信する観光・レジャー情報は、若い世代にはリアルなのですね

TwitterやInstagramなどで、個人アカウントが発信する「ここすごく良かったですよ」が真実かどうかは、もちろんわかりません。しかし、真実味—リアリティを求める若い世代に魅力的に映るのは事実です。

SNS時代になり「post-truth(ポスト真実)」という言葉が登場しました。観光・レジャー情報においても同じで、氾濫する情報の何が真実かがわからないからこそ、リアルに近い口コミや体験を求めるのでしょう。

リアリティを求める若者にとって、公式情報や商業メディアが発信する情報は、真実かどうか疑いたくなるようです。それよりも、友人やフォローしているインフルエンサーを信用しているのでしょうね。

先ほどお話した消極的な理由にもつながるのですが、若い世代はできるだけ損をしたくないと考えています。実際に体験した人の「良かった」という情報を参考にすれば、損を回避できると考えているのでしょう。

若い世代がリアルな情報を求めるのは、何も観光・レジャーに限る話ではないですよね。公式情報でも口コミでも、隠された意図やリアルを読み解こうとする、いわばファクトチェック(事実検証)のようなことをやっているんです。

ー幼い頃から情報が氾濫する社会で育ったからこそ、若い世代は情報と上手に付き合っていけているのかもしれません

若者は「新しいもの・不確かな情報に流されやすい」と思われがちです。流行りのインスタ映えについても「若者は安易に迎合している」というイメージを持たれています。

しかし、実際のところ、若者たちの「情報を選別するための見識」は極めて高いと言えるでしょう。情報の価値、あるいは情報の向こうにいる発信者の価値に対して、大変シビアな評価眼を持っていると思います。

そうならざるを得なかった面もあると思いますが、若者はテクノロジーとの距離の取り方が上手いですよね。情報に引きずられることなく、あっさりとしていると思います。

私がインタビュー調査で出会ったインフルエンサーは、インスタ映えに対して冷静でしたね。映えそうなキラキラしたものにカメラを向けた時、「これってインスタ映えじゃん(笑)」と自分で自分を笑ったと聞きました。インスタ映えを狙った投稿を意識して避けるそうです。

まずは自分が楽しみ、それをフォロワーにも共有したいインフルエンサー

ーインフルエンサーたちは、どういった観光・レジャー情報を発信しているのでしょうか?

一言で説明するのは難しいのですが、基本的には「ありきたりでないもの」または「斬新な視点」を発信していると思います。

観光・レジャー情報であれば、あまり知られていないスポット、あるいは有名な場所でも違った視点からの紹介ですね。インフルエンサーたちは、これまでの投稿でどういった内容に反応が集まったかを把握していると思うので、ある程度はフォロワーの反応を想定できるようです。

ーどのような人たちがインフルエンサーをしているのか気になります

私がインタビュー調査した限りですが、インフルエンサーといっても観光・レジャー業界に勤めているわけではなく、学生や会社員など“普通の人”ばかりでしたね。

そんな彼ら彼女らが、どこから観光・レジャー情報を得ているのか疑問に思ったので聞いたところ、意外にもテレビや雑誌でした。

既存のマスメディアから、面白い情報・斬新な視点を発見する力に長けているのでしょう。私なんかでは、テレビで観光・レジャー情報を視聴していても、彼ら彼女らのような斬新な視点は到底思いつかないです(笑)。

ー先生のインタビュー調査を拝見すると、発信者は非都市部(地方)の観光・レジャー情報を発掘することに価値を見出しているようでした

これはSNSに限らず、インターネット上には情報が溢れていますよね。都市部の情報はそれこそ「ありきたり」なのだと思います。

それに比べ、地方であれば、自分で発掘しなければ見つけることができない情報がたくさんあります。日本は広いので、それこそ非常に多くの情報が埋もれているでしょう。

「より良い体験をしたい」と考えているSNS利用者は、埋もれた情報を検索します。そうして出てきた投稿は、多くの人がまだ体験していない、希少価値のある情報です。

つまり、地方での体験というだけで価値のある観光・レジャー情報になります。もちろん自分のフォロワーにとっても価値の高い情報となるでしょう。

ただ、調査でインフルエンサーに話を聞いた限りでは、情報価値についてはあまり考えていない感じも受けました。まずは自分が楽しみたい、それをフォロワーにも共有したいという感じではないでしょうか。

自分が好きなこと、楽しかった体験だからこそ、彼ら彼女らの情報はリアリティを帯びるのかなと思います。インフルエンサーたちも、自分が楽しめてフォロワーにも喜んでもらえる「コスパの良い体験」を求めている面もあるでしょうね。

プライバシーを守り、炎上を招かない発信者の工夫

ーSNSで情報を発信している人たちは、どの程度「他人の目」を気にしているのでしょうか

私が調査した限りでは、決して承認欲求を満たしたいわけではなく、むしろ「まずは自分が楽しみたい」と思っている人が多かった印象です。ただし、「他人がどう思おうがまったく気にしない」というわけではありません。

プライバシーについて気にしているインフルエンサーの話は印象的でした。その人は都内に住んでいるのですが、基本は近所の情報をアップしない、アップするにしても後日にすると言っていましたね。

地方を旅する場合も、リアルタイムで投稿していると、フォロワーが多いので特定されてしまうかもしれないと考えているようでした。これは人それぞれで、旅先の情報をどんどん投稿するアカウントもあります。

プライバシーを守るのと同時に、炎上しないような配慮も行き届いていると感じました。インフルエンサーたちには、「こんな投稿をすれば炎上する」ことがある程度わかっているみたいですね。

ー発信者としては炎上は避けたいですものね

2020年の前半で言えば、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて外出自粛が呼びかけられましたよね。特に5月から6月にかけてのInstagramの投稿では、場所をぼかしてアップしている、限定公開にしているアカウントも見かけました。

世間体を気にしているのはもちろんですが、お店への配慮だったりもあったのかもしれません。よく工夫しながら発信しているなと感心しました。

私たちは「フィルターバブル」の中から情報を見ている

ー私たちがSNSで情報を得る際には、どういったことに気を付ければいいのでしょうか?

SNSでは、過激な情報、わかりやすい・一面的な情報が流れてきます。そうした情報に接した際には、冷静に判断できるといいですね。

観光・レジャー情報であれば、例えば登山を楽しんだ投稿があったとします。しかし、実は初心者では難しい、かなりの経験者でないと登れない山である可能性もありますね。

楽しそうに思えても、リスクや必要な準備について調べた上で、実際に行くかどうか決める必要があるでしょう。

ーSNSの情報がすべてではないということですね

イーライ・パリサーという人が生み出した「フィルターバブル (filter bubble)」という言葉があります。私たちは情報社会の中にあって、フィルタリングしてくれる泡の中にいる状態であるという考え方です。

SNSでは、自分が好む情報が届くようになっています。フォローしているアカウントが自分が好きな人、興味のある情報を届けてくれる人だからです。あるいは、SNSのAIが好みを分析して、届ける情報を選別してくれているかもしれません。

そうすると、私たちは非常に偏った情報・考え方に囲まれることになります。そうしたリスクに気付けることも大事だと思いますよ。